王麗敏弁護士が綴る日中法律の架橋ブログ

日中間の法律の違いを分かりやすく説明した法律エッセーを中心に掲載しています。
上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』などで発表した記事や、日本や中国で出会った方々についてコメントを寄せています。

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雇用契約

ご縁に任せる

ある宴席で、中国語のほとんどわからない日本の方が、「随意」という中国語を口にされたことに大変驚いた。よく考えたら、中国では宴会の場で「乾杯」と称して強烈なお酒「白酒」を勧めるのが一般的である。そのため、「随意」と話せば、その場を凌ぐことができるため覚えたのであろうと思った。その後も実際に「随意」と中国語で話して、その場を無事やり過ごした日本の方を見かけたことがあった。
先日の上海O型会で会員たちと雑談していた際、中国語でよく使われる「随便」との違いが話題になった。「随意」は、「随你的意」、「随我的意」あるいは「随他的意」となり「意思に従う」という意味だが、「随便」は、多くの場合「随你的便」、「随他的便」として「ご自由に」という意味で使われる。その時、ふと仏教に由来する「随縁」という言葉も思い出し、皆さんにお話したら、「いいね」とフェイスブックの定番語で評価された。
ちなみに、古都・南京に「随園」という庭園があると聞いている。「園」は「縁」と同じ発音だから、縁に任せる、または人が集まる「園」には「ご縁」が隠れているという意味で名づけられたのであろう。
昨今の目覚しい世相の変化で「坐立不安」(居ても立っても居られない)の境地に陥る際には、ご縁に任せようと心構えを変えてみてはいかがであろうか。もっとも、「随縁」とは何もしないで奇遇を待つのではなく、「人事を尽くして天命を待つ」と同様に最大限努力し結果を待つことだと思う。世の努力家たちに良縁が訪れることを願う。
(上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年5月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)

署名は慎重に・・・

早稲田大学に在籍していた頃、会社法の授業で「記名捺印」の法的な意義を学びました。担当教員だった尾崎安央教授は、何をもって記名になるかを熱っぽく語り、今でもその光景をはっきり覚えています。
日本では、一般的に会社名義の書類の場合、社印及び代表取締役の署名をもって、正式に法的な効力のある文書になります。個人の場合、署名と実印をもって文書を作成した者の真意が証明されます。
中国では、会社の書類の場合、社印があれば、会社名義のものであると推定され法的な効力を有します。個人の場合、印鑑はその出番が無いと言ってもいいほどあまり機能していません。印鑑を持ち歩くことはごく稀です。欧米並みに署名、つまり自署が重視されます。中国では、個人に印鑑を押してくださいと言われたとき、気安く押しますが、署名してくださいと言われると、大抵の人は慎重になります。大事な文書は印鑑より自署を求められるのです。
近頃、社印なし、または自署なしの書類に関して相談を受けるケースが増えてきています。皆さんも、社印の捺印、名前の自署に慎重に対応し、相手方から受け取った法的な書類に必要な捺印と署名があるか、確認を怠らないようにして下さい。あとは日付も忘れずに確認しましょう。
(上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年3月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)

誰でもM&A

「M&A」をよく耳にする。まわりに案件だらけで商機が確実に潜んでいる。しかし、成就させようとすると道のりは遠い。お相手が決まったM&Aのデューデリジェンス(買収監査)のご依頼を受けたり、お相手探しのご相談をされたりしている中、M&A当事者としての注意点を改めて認識させられた。2、3件ご紹介して参考にして頂きたい。 まず、売買当事者は必ず弁護士をつけること。弁護士だから当然なことを言っていると思われるかもしれないが、本当に当事者の立場を考えて提言させて頂きたい。実際の案件の中に、ある買収側企業は、基本条件での問題は見当たらないし、書類手続き等は売却側の弁護士がやってくれるからと思い、専門家に助言を求めることをしなかった。しかし、行政手続き上重要な事項を売却側の弁護士から知らされてないため、後になって厄介なことになってしまった。当該ケースにおいては、売却側の弁護士はその手続きを告知する義務はなかったため、明らかに買収側の対応不足と言わざるを得ない。 次に、仲介者の注意点として初期段階においては社名の開示を慎重にしなくてはいけない。性急に社名を開示したら知らない間に情報が漏れて別なルートで案件が進められている可能性がある。それから、打診段階が過ぎてある程度進展が見えてくると、基本契約書、委任契約書、秘密保持契約書等で固めるべきである。 ビジネス世界のM&Aは「お見合い」みたいなものである。「相性」の問題が重要である。売却側企業に、なぜ売れないのかと疑問を投げられたことがある。それは「結婚」みたいなもので、好感を抱くお相手が現れていないと考えてほしい。 日頃の雑談の中からも「M&A」みたいな話が出てくる。色々な業種の方が集まる各ビジネス・サークルが「M&A」のフリーマーケットみたいに見えることがある。もちろん、どの会社も当事者になる可能性があり、身近で発生することである。関心がある方は情報のアンテナを張って、できるだけ失敗しないように専門家に意見を求めてもらいたい。 (上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年1月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)
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