王麗敏弁護士が綴る日中法律の架橋ブログ

日中間の法律の違いを分かりやすく説明した法律エッセーを中心に掲載しています。
上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』などで発表した記事や、日本や中国で出会った方々についてコメントを寄せています。

ご意見、ご要望がある方は、 wanglimin@allbrightlaw.com までご連絡下さい。

2013年08月

見えるものがくれる安心感

中国の諺に「眼不见为净」(見ていなければ煩わされず、心の安らぎが得られる)というものがある。しかし、私にとってこの真夏に「見えて安心」といものがある。それは蚊取り線香である。蚊除けのため、おそらく人類はつい最近まで何かを燃やして煙を発生させ、蚊を寄せ付けないようにしてきたのであろう。しかし、いまは煙の出ない「電池的」なものになってしまった。
ところが、無煙式の最新機器は私の場合あまり効かないような気がする。昨年、伝統に戻ろうと閃き、煙の出るいかにも効きそうな蚊取り線香にした。その煙を見てその匂いを嗅ぐと、このような過酷な空気では蚊も無理であろうと思った。実際、そのとおりに蚊たちは寄ってこなくなった。気のせいか、煙なしより効きそうである。
法律の世界となると、見えそうで見えない基準、つまり、抽象的に規定されていて、具体的に運用することが難しい基準は少なくない。抽象的で中身が見えない、解釈によりその中身が変わる可能性がある基準となると、大変不安になる。
何々に関して新法または法改正された、具体的にどのように対応すればいいのか、相談を受ける。大抵はそれが抽象的で理解しにくい、実行しにくいものである。弁護士もその回答を知りたく、いろいろと調べまくる。多くの抽象的な規定は、具体的な事象に当てはめる過程の中、運用細則の制定、司法解釈等により具体的な基準が見えてくる。自己の業界、ビジネスに関連する法的なルールは、抽象的に見えても、そのルールと関連する具体的な事象を追跡することにより、明白になるであろう。
(上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年7月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)

ご縁に任せる

ある宴席で、中国語のほとんどわからない日本の方が、「随意」という中国語を口にされたことに大変驚いた。よく考えたら、中国では宴会の場で「乾杯」と称して強烈なお酒「白酒」を勧めるのが一般的である。そのため、「随意」と話せば、その場を凌ぐことができるため覚えたのであろうと思った。その後も実際に「随意」と中国語で話して、その場を無事やり過ごした日本の方を見かけたことがあった。
先日の上海O型会で会員たちと雑談していた際、中国語でよく使われる「随便」との違いが話題になった。「随意」は、「随你的意」、「随我的意」あるいは「随他的意」となり「意思に従う」という意味だが、「随便」は、多くの場合「随你的便」、「随他的便」として「ご自由に」という意味で使われる。その時、ふと仏教に由来する「随縁」という言葉も思い出し、皆さんにお話したら、「いいね」とフェイスブックの定番語で評価された。
ちなみに、古都・南京に「随園」という庭園があると聞いている。「園」は「縁」と同じ発音だから、縁に任せる、または人が集まる「園」には「ご縁」が隠れているという意味で名づけられたのであろう。
昨今の目覚しい世相の変化で「坐立不安」(居ても立っても居られない)の境地に陥る際には、ご縁に任せようと心構えを変えてみてはいかがであろうか。もっとも、「随縁」とは何もしないで奇遇を待つのではなく、「人事を尽くして天命を待つ」と同様に最大限努力し結果を待つことだと思う。世の努力家たちに良縁が訪れることを願う。
(上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年5月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)

署名は慎重に・・・

早稲田大学に在籍していた頃、会社法の授業で「記名捺印」の法的な意義を学びました。担当教員だった尾崎安央教授は、何をもって記名になるかを熱っぽく語り、今でもその光景をはっきり覚えています。
日本では、一般的に会社名義の書類の場合、社印及び代表取締役の署名をもって、正式に法的な効力のある文書になります。個人の場合、署名と実印をもって文書を作成した者の真意が証明されます。
中国では、会社の書類の場合、社印があれば、会社名義のものであると推定され法的な効力を有します。個人の場合、印鑑はその出番が無いと言ってもいいほどあまり機能していません。印鑑を持ち歩くことはごく稀です。欧米並みに署名、つまり自署が重視されます。中国では、個人に印鑑を押してくださいと言われたとき、気安く押しますが、署名してくださいと言われると、大抵の人は慎重になります。大事な文書は印鑑より自署を求められるのです。
近頃、社印なし、または自署なしの書類に関して相談を受けるケースが増えてきています。皆さんも、社印の捺印、名前の自署に慎重に対応し、相手方から受け取った法的な書類に必要な捺印と署名があるか、確認を怠らないようにして下さい。あとは日付も忘れずに確認しましょう。
(上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年3月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)

誰でもM&A

「M&A」をよく耳にする。まわりに案件だらけで商機が確実に潜んでいる。しかし、成就させようとすると道のりは遠い。お相手が決まったM&Aのデューデリジェンス(買収監査)のご依頼を受けたり、お相手探しのご相談をされたりしている中、M&A当事者としての注意点を改めて認識させられた。2、3件ご紹介して参考にして頂きたい。 まず、売買当事者は必ず弁護士をつけること。弁護士だから当然なことを言っていると思われるかもしれないが、本当に当事者の立場を考えて提言させて頂きたい。実際の案件の中に、ある買収側企業は、基本条件での問題は見当たらないし、書類手続き等は売却側の弁護士がやってくれるからと思い、専門家に助言を求めることをしなかった。しかし、行政手続き上重要な事項を売却側の弁護士から知らされてないため、後になって厄介なことになってしまった。当該ケースにおいては、売却側の弁護士はその手続きを告知する義務はなかったため、明らかに買収側の対応不足と言わざるを得ない。 次に、仲介者の注意点として初期段階においては社名の開示を慎重にしなくてはいけない。性急に社名を開示したら知らない間に情報が漏れて別なルートで案件が進められている可能性がある。それから、打診段階が過ぎてある程度進展が見えてくると、基本契約書、委任契約書、秘密保持契約書等で固めるべきである。 ビジネス世界のM&Aは「お見合い」みたいなものである。「相性」の問題が重要である。売却側企業に、なぜ売れないのかと疑問を投げられたことがある。それは「結婚」みたいなもので、好感を抱くお相手が現れていないと考えてほしい。 日頃の雑談の中からも「M&A」みたいな話が出てくる。色々な業種の方が集まる各ビジネス・サークルが「M&A」のフリーマーケットみたいに見えることがある。もちろん、どの会社も当事者になる可能性があり、身近で発生することである。関心がある方は情報のアンテナを張って、できるだけ失敗しないように専門家に意見を求めてもらいたい。 (上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2013年1月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)

競争から共生へ

ある日、賢者たちは「人間は利己的に行動する動物である。利己的過ぎると他者への侵害になってしまう。」ということに気づき、「法律(或いは村社会のルール)」というものを作り上げた。しかし、この目に見えない縛りは100%機能しているとは言えない。もし一日を無法日に設定したら、この一日、どんなことが起きるだろう。それを想像してみると、「法律」というものは空気のような存在だが、不可欠な存在と言える。
しかし、「法律」のない動物社会は何を持って規制されているのか。動物も基本的に利己的である。種によって「寄生」、「共生」も見られるが、「弱肉強食」は普遍的なルールである。ところが、同種の中では利他的な行動をする動物も存在する。蜂はその一例であろう。群れが敵に攻撃されると敵を刺すことによって敵を撃退する。刺した蜂は命を失うが、他の蜂はその蜂の利他的な行動によって生き延びることができる。結果的に種全体は命を継続できるのだが、個々の蜂にとって利己的な結果だとは言えないのではないだろうか?
蜂に学べとはナンセンスである。人間には「法律」の社会がある。人間の利他的な行動は他の動物のものと区別しなくてはいけない。しかしながら、個々が利己的に考え過度な競争に走れば、最終的に行き場を失う結果に成りかねない。如何に良性的な競争をしながら、共に生きる社会を目指すかは難しい課題である。個々の認識及び努力から始めるしかない。
(上海日本語コミュニティ情報誌『MARCO』2012年9月号掲載 / 筆者:王麗敏弁護士)
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